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男性の精子数はなぜ減少するのか [海外メディア記事]

 もう10年以上も前に、ダイオキシンの騒動がおき、環境ホルモンも話題になった時期があった。しかしやがて急速に話題にのぼらなくなったのは、国民の忘れっぽさというより、これらの化学物質が、大騒ぎをした割には、それほどのリスクをもたらさないことが科学的に判明したためだったと、少なくとも私はそう認識している。

 しかし、それはともかく、男性の精子数の減少はかなり深刻なのだそうだ。環境ホルモンが騒がれた時期にもそのことが話題になった記憶があるが、男性にばかり視線が注がれていた気がする。

 この10年あまりの間に、研究者は遅々とした歩みながら、徐々に急所に迫りつつあったようだ。目を向けなければいけないのは、男性ではなく、その男性の母親の方なのだ、というコンセンサスが出来あがりつつあるようだ。イギリス『インデペンデント』紙の記事より。



http://www.independent.co.uk/news/science/out-for-the-count-why-levels-of-sperm-in-men-are-falling-1954149.html

 「男性の精子数はなぜ減少するのか

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   もし火星からの科学者たちが人間の男性の生殖システムを調査するようなことがあれば、彼らはおそらく、人間の男性が急速な絶滅に向かっていると結論づけるだろう。他のほ乳類と比べて、ヒトが作り出す生殖に結びつく精子――あれほど長い競泳をした挙句に受精していない卵子の中へ突き進むことのできる精子――の数は、相対的に見て低いレベルになってしまった。

  18歳から25歳までの健康な若者で、異常なほどわずかしか精子を作り出せない男性は5人に1人の割合にのぼる。しかも彼らが作り出す精液は、しばしば質が悪い。それらの精子のうち、厳密な世界保健機構のルールの下で「正常」として分類されるほど良好なのは、平均して実に5%から15%にすぎない――しかもこれは若い、健康な男性の数字なのである。対照的に、家畜の牛や羊、さらには実験室のラットの精子の90%以上は正常なのである。
 
  人間の男性はまた、先天的異常や停留睾丸{ていりゅうこうがん}から癌やインポテンツにいたるまでの生殖にかかわる問題を抱える確率が、他の種とは比較にならないほど高い。こうしたことは出生率にも影響するので、男性が子どもの親になること自体ちょっとした奇跡と言えるほどである。実は、子どものない男性の数は増加中である。不妊と分類されるカップルのうち、「男性側の要因」がその原因として認められたケースが7組のうち1組の割合でいることが判明している。

 
  来年は、デンマークの科学者が、西欧の男性が不妊の危機を迎えつつあるという事実に初めて世界の注意を喚起したWHOの会議の20周年記念の年にあたる。コペンハーゲンの大学のニールス・スカケベック(Niels Skakkebaek)教授が、過去の50年にわたって精子の数が約半分に減ってしまったことを示すデータを提示したのであった。1940年代の精子の数は1ミリリットルあたり1億個以上の精子細胞だったが、スカケベック教授は、それが1ミリリットルあたり平均約6千万個に減少したことを発見したのだ。他の研究によれば、精子数が1ミリリットルあたり2千万個以下しかない若者が15%から20%もいることが判明したが、それはテクニカルに見ると異常と定義される数なのである。対照的に、酪農場の雄牛は生殖に結びつく精子を10億単位でもっている。


 人間の生殖生物学の専門家はデンマーク人のこの研究に驚愕した。この減少傾向は、男性があと数世代のうちに完全に不妊のレベルに達する途上にあることを示しているように思われた(精子数の減少が底を打ったらしいと示唆する最近の研究もあるが)。スカケベック教授は、この減少が、生殖にかかわる他の障害、たとえば睾丸癌や睾丸停留(睾丸が陰嚢に不完全にしか降りてこない症状)のような障害が同じくらい驚くほど上昇していることと何か関係があるのかもしれないと示唆する以外に、この減少傾向に関する説明を与えることはできなかった。


 専門家は人間の男性に影響を与える新たな現象、精巣性発育不全症候群(Testicular Dysgenesis Syndrome)として知られる一群の障害を話題にし始めた。専門家は何がその症候群を引き起こしたのかを知りたがった。その変化があまりにも急速だったので、遺伝の結果であるとは考えられなかった。それは生活スタイルの変化や男性を取り巻く環境と関係があるに違いないと彼らは考えた。そして、化学的汚染物質への暴露からタイトな下着を好む現代のファッションにいたるまでのありとあらゆるものが、原因としてもち出された。今では、男性の不妊問題を悪化させているものが何であれ、それは多分子宮のなかで始まっているというコンセンサスが専門家の間に広がっている。問題なのは男性の生活スタイルではなく、母親の生活スタイルの方なのである。

 精子形成(spermatogenesis)と呼ばれる精子生産のプロセスは青年期に始まるが、その土台は誕生前後の数ヶ月間に築かれる。胎児として成長する頃に始まり誕生してからの6か月間で終わる睾丸の発達の決定的な「時期」に目を向ける研究者が増えているのである。この決定的な発達の時期に干渉が起こると、赤ん坊は、生殖能力が最適とはいえない男性になるという生涯にわたる結果を引き受けることになるだろう、というのである。


 では、なぜ生殖の問題に悩む男性がこれほど増えているのかという問題に対する説明を見いだすことに幾らかでも近づいたのだろうか?


 「精子数の減少は、過去50年に及ぶ環境や生活スタイルの多くの変化が精子の生産に本質的に悪影響を及ぼしているという事実を反映したものでしょう」。そう語るのは、医学研究審議会(Medical Research Council)の生殖研究の専門家リチャード・シャープ教授。「さまざまな要因が集まって複合的な結果をもたらしたのかもしれません」。多くの研究が、子宮での早期の発達と、後になって判明する男性の生殖問題、特にわずかな精子数とのつながりを指摘している。たとえば、 1976年にイタリアのセべソで起きた工場の事故の結果高レベルの有毒なダイオキシンにさらされた妊婦の産んだ男性には、平均よりも低い精子数しかないことが判明している。しかし大人になってダイオキシンにさらされた男性はそのような結果を何ら示さなかった。別の研究によると、妊娠の間に多量の牛肉を食べた(それは、多環芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbons (PAHs))と呼ばれる潜在的に有害な化学物質に富む食事なのだが)女性の息子は精子数が比較的少なかった。しかし大人の男性として牛肉を食べても同じような影響は何ら示されなかった。


 その一方、スウェーデンとフィンランド間の移住者の研究は、男性が睾丸癌にかかる生涯リスクが、移住者が育った国ではなく、移住者が生まれた国に従う傾向があることを示した。男性が睾丸癌にかかるリスクを主に決定しているらしいのは、男性が少年または青年時にすごす環境よりも、その男性を身ごもっていたときの母親の環境なのである。


 この考え方を指示する最も強力な証拠の1つは喫煙者についての研究から得られる。喫煙する男性は平均して15%ほど精子の数を減らすのだが、彼が禁煙すればその数は元に戻る。しかし、妊娠の間にタバコをすっていた母親の子どもは、喫煙することによって、とても劇的なことに40%も精子の数を減らしてしまうのだが、その数は元に戻らない傾向がある。


 シャープ教授によれば、そうした発見は、睾丸の最初の細胞がどのように形成されるかを理解することによって説明できるのだという。セルトリ(Sertoli)細胞は、成人において精子細胞の発達を保護する役割をはたすのだが、それこそヒトの男性胎児の「生殖隆起」から形成される最初の細胞である。成人男性で作られうる精子の数は、その男性が胎児だった頃に形成されるセルトリ細胞の数次第である。だから、母親の子宮内でセルトリ細胞の形成に干渉するものは何であれ、ずっと後になって行われる精子の生産に影響を及ぼすことになる。「妊娠時の母親の生活スタイルが、その息子が大人になったときの精子の数にきわめて大きな影響を及ぼしているのかもしれませんし、こうしたことを引き起こすもっとも論理的なメカニズムは、セルトリ細胞の数を減らすことによるものです」とシャープ教授は言う。

 しかし、もっともキーとなる問題は、精子数の減少に関係する生活スタイルや環境上の要因を特定することである。

 これは厄介な問題であることが判明しつつある。たとえば、肥満はますます大きな問題になりつつあるし、男女を問わず生殖にかかわる問題に結びつけられてきた。ある研究が示したことだが、肥満ぎみの妊婦は精液の質が良くない息子を生む傾向がある。しかし、太っていることが原因なのだろうか、それとも脂肪に蓄えられている環境化学物質が原因なのだろうか?


 環境における化学物質、とくに女性ホルモンに似た――エストロゲン作用をもつ化学物質――作用をしたり、男性ホルモンをブロックする化学物質や、子宮におけるセルトリ細胞の発達を刺激する上で決定的な役割をはたすテストステロンなどには多大な関心が払われてきた。これまでのところ、人間の胎児の発達と、少ない精子数と、環境化学物質への生前の暴露との間にある最も明瞭なつながりを提供しているのはセベソ事故の研究である。しかし、この工場事故に由来するダイオキシン濃度は例外的なまでに高かった(ので、一般的な指標にならないのである)。


 男性の生殖にかかわる問題と、他にたくさんある低濃度の環境化学物質(殺虫剤、排気ガス、プラスティック、それどころか大豆までにも及ぶ多岐にわたる物質を含む、エストロゲン作用が少ないか、男性ホルモンをブロックする特性をもつ物質)への暴露との間に、似たような意味ある結びつきを打ちたてようとする試みは、もっと難しかった。シャープ教授は、現在のところ多くの証拠は弱いものであるかまたは存在しないかのいずれかであると述べた。


 「成人男性における精子形成に環境化学物質が及ぼすマイナスの効果について一般の人が抱く懸念は、ヒトに対して利用できるデータによって裏打ちされるものではありません。環境化学物質のマイナスの効果は示されましたが、それらは通常、一般の人々に当てはまるというよりは、科学者の職業的なセッティングのなかにあるだけなのです」と彼は言う。


 だから、男性が後になって子どもを持てるかどうかを決定する子宮内での胎児の発達の決定的な時期に科学者たちは肉薄してはいるけれど、男性が子どもを持てるかどうかの分かれ目に影響を及ぼすものが何であるかについてはいまだ確信を抱けないでいる。しかし確実なことが一つだけあって、それは、男性の母親が鍵を握っている、ということである」。

 








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助産師のアロマテラピーil-mano 赤堀眞里

初めまして。
助産師でアロマセラピストの赤堀眞里と申します。
妊娠・出産・育児にまつわる情報の発信を行っています。
今回のブログ、大変興味深く読ませていただきました。
私のブログでも紹介させていただいてよろしいでしょうか?
よろしくお願いいたします。
by 助産師のアロマテラピーil-mano 赤堀眞里 (2012-08-10 08:45) 

MikS

赤堀様

全然かまいません。どうぞお使いください。
by MikS (2012-08-10 16:36) 

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