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どうしてアメリカはiPhone関連の仕事を失ったのか(1) [海外メディア記事]

 工場の海外移転とそれに伴う国内産業の空洞化が大きな問題になっているのは、日本だけではない。アメリカでも深刻な問題として意識されつつあるようだ。しかも、アップルをはじめとする先端テクノロジーの本家本元のアメリカで、そのテクノロジーが雇用に結びつかず、製造業の衰退と中流階級の没落に拍車をかけているのだという。

 『ニューヨーク・タイムズ』の記事より。全部で7ページとかなり長いので、3回に分けて紹介する。




How the U.S. Lost Out on iPhone Work 


By CHARLES DUHIGG and KEITH BRADSHER
Published: January 21, 2012


http://www.nytimes.com/2012/01/22/business/apple-america-and-a-squeezed-middle-class.html



「  どうしてアメリカはiPhone関連の仕事を失ったのか


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中国・河南省で開かれた2010年の就職説明会で履歴書を手にもってフォックスコン・テクノロジー社(Foxconn Technology)のブースに殺到する中国の人々。



 昨年二月、バラク・オバマがカリフォルニアでシリコン・バレーのリーダーたちと会食したとき、招待された人は皆、大統領に対する質問を一つ考えてきてくれるように求められていた。


 しかし、アップル社のスティーブン・P.ジョブズが話しだすと、オバマ大統領は話をさえぎって、自分の方から質問したのだ。アメリカでiPhoneを作るとしたら何が必要なのだろうか、と。


 少し前まで、アップル社は自分たちの製品がアメリカで作られていることを自慢していたものだ。今日、アメリカで作られているアップル社の製品はほとんどない。昨年販売された7000万台のiPhone、3000万台のiPad、5900万台のその他のアップル社の製品のほとんどは海外で製造されたものだ。

 
 そうした仕事がアメリカに戻ってくることはどうしてできないのか? とオバマ氏は尋ねたわけだ。


 ジョブズ氏の返事に曖昧さの余地はなかった。「それらの仕事がアメリカに戻ってくることはありません」。別の夕食会のゲストによると、ジョブズ氏はそう言ったそうだ。


 大統領の質問は、アップル社の核心をなす信念に触れているのだ。海外の労働者の方が安い、というだけではない。むしろ、アップル社の幹部の信念によると、海外工場の規模や、外国人労働者の柔軟性や勤勉さや工場での技術はアメリカの工場や労働者のそれを上回っているので、「アメリカ製(Made in U.S.A)」はほとんどのアップルの製品にとってもう実現性のある選択肢ではなくなっているのである。

 アップル社が地球上でもっともよく知られ、もっとも多くの称賛を勝ちとりもっとも模倣される企業の一つになった理由の一つは、地球規模で進行するオペレーションを絶えずコントロールしているからだ。昨年、アップル社の従業員一人当たりの利益は40万ドルを超えたが、これはゴールドマン・サックスやエクソン・モービルやグーグルをしのぐ数字だ。

 しかし、オバマ氏のみならず経済学者や政治家を苛立たせているのは、アップル社が――そして、ハイテクの同業他社の多くが――、他の有名な企業が最盛期にそうであったほどには、アメリカ人の雇用創出に熱心ではないということなのである。

 アップル社のアメリカの従業員は4万3000人で海外の従業員は2万人だが、1950年代のゼネラル・モーターズ社にアメリカ人従業員は40万以上いたし、1980年代のゼネラル・エレクトリック社にも数十万の従業員がいたことに比べれば、アップル社のアメリカ人従業員の数は微々たるものだ。アップル社の下請けで働く人の数はもっとずっと多い。上の数字に加えてさらに70万人がiPadやiPhonやそれ以外のApple製品を設計したり、組み立てたり取りつけ作業を行っている。しかし、そのほとんどはアメリカで働いているわけではない。彼らはアジアやヨーロッパやその他の地域の外国企業の従業員であり、エレクトロニクスの設計者のほとんどすべてが、自分の商品を作り上げるためにそうした工場に頼っているのである。


 「アップル社は、現在のアメリカで中産階級の雇用を創出するのがとても難しくなっている理由を示してくれる一例なのです」。そう語るのは、昨年までホワイト・ハウスの経済顧問をしていたジャレッド・バーンスタイン。

 「資本主義の頂点にある企業がこうであるとすれば、われわれとしては憂慮せざるをえません」。


 アップル社の幹部は、現時点では、海外に向かうことは唯一のオプションである、と言っている。ある元幹部は、iPhoneが販売されるわずか数週間前に、iPhoneの製造方法を改善するために同社がどれほど中国の工場に頼っていたかを語ってくれた。アップル社は、最後のギリギリになって、iPhoneのスクリーンのデザインを変更することになり、組立ラインの見直しをせざるをえない羽目になった。新しいスクリーンが到着し出したのは真夜中近くだった。

 
 幹部によると、工場長がただちに会社の寮にいた8000人をたたき起こしたそうだ。従業員一人一人にビスケット一枚と一杯のお茶が手渡され、彼らは作業場に案内されると、30分以内には、ガラスのスクリーンを面取りをしたフレームに組み込む12時間シフトの仕事に取りかかっていた。96時間以内に、その工場は一日につき1万台以上のiPhoneを生産していたそうだ。


 「あのスピードと柔軟性には息を呑むような思いがします」とその幹部は言った。「それに匹敵できるようなアメリカの工場はありません」。

 
 それに似たような話はほとんどすべてのエレクトロニクスの会社で聞くことができる――だから海外移転は、会計や法律業務や銀行や自動車製造や医薬品業界を含む何百という業界でも普通のことになってしまったのだ。


 だからアップル社が特殊というわけでは全くないのだが、それでも同社は、素晴らしい業績を上げていてもある種の企業の成功がなぜ国内の大規模な雇用に結びつかないのかを垣間見せるヒントを与えてくれるのだ。さらに、同社の決定は、グローバルな経済と国内の経済がますます絡み合ったものとなるにつれて、アメリカの実業界がアメリカ人にどれほどの借りを作っているかについてより幅広い問いを提起しているのである。

 
 「かつての企業はアメリカ人労働者を支援する義務を感じていました、それが財務上最良の選択ではない時であってもね」。昨年9月まで労働省のチーフ・エコノミストだったベッツィー・スティーブンソンはそう述べた。「そんな義務感は消えてしまいましたね。利潤と効率が寛大さに打ち勝ってしまったのです」。




」(つづく)





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