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シルヴィア・プラス:ダディー

 昨日の記事でシルヴィア・プラスの名前に言及があった。日本ではあまり知名度があるわけではないが、欧米では教養層では知らないものはいないほど有名な詩人である(しかも熱狂的なファンが非常に多い)。基本的な情報についてはWikiを参照されたし(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%AB%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%82%A2%E3%83%BB%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%B9)。彼女はラジオ局で何編か自作の朗読を吹き込んでおり、その音声に映像を付け足したものがYouTubeで出回っている。

 自分が贔屓にしている詩に、独自の映像と音声を組み合わせたものがかなりYouTubeにあるようだ。詩が好きな欧米人のひそかな流行なのだろう。パヴェーゼの詩にタルコフスキーの映像をカップリングした作品を見たときは、思わず飛び上がるほどびっくりした。一瞬、タルコフスキーがパヴェーゼのために映像を作ったのかと思ったからなのだが、これは単に『ストーカー』の映像を取ってつけただけのものだったが、しかし洒落ているな~、と感心したし、そうか、こんな詩の楽しみ方があるのか~、自分でもできるかなとも思いもしたが、今はまだ無理。 とりあえず、シルヴィア・プラスの代表作の一つ「ダディー」を、作者の朗読の音声、映像、原詩、訳文をまとめた形で、紹介してみようと思った次第。朗読と映像については次をご覧ください。シルヴィア本人の息遣いまでもが堪能できます。


 



 彼女は父親とは10才の時に死別。父親を思慕する気持ちは高じるばかりで、20歳のときに父のところに行こうと自殺未遂を計る(「みんなで あなたを埋葬した時 私は十歳だった。二十歳の時 私は死んで あなたのところに帰ろうとした 帰ろう 帰ろうと。骨になって帰っても良いとさえ思った」)。24歳のとき、詩人テッド・ヒューズと結婚。そこに彼女は父親の面影を認めたのだろう(「僕が父親の代わりになろう」)。しかし、無慈悲にもシルヴィアを捨てて他界した父親の裏切り行為(と彼女には感じられたはず)と同様に、夫にも裏切られることになる(「私の血を・・・七年間・・・吸い取ったあの吸血鬼」)。占いは、初めから不吉な運勢を示していたようだ(「私の薄気味悪い運勢 私のタロット・カード タロット・カード」)。父親はドイツ系だった(そこからドイツ的なものに対する憎悪が生ずる。「私」が、死の運命に追い立てられるユダヤ人のような立場に追い込まれるのは、比喩の論理ともいうべきもの)。しかし、父親は黒い服を着た吸血鬼でもあった。黒い服を着ているという点で、ヒューズは父親と重なり合ったのだろう。ヒューズはもう一人の父親だった。 一生涯報われることのなかった愛情を向け続けた相手を、ナチスに、吸血鬼に変えながら、そして彼らのとの関係を清算するつもりで、いま、電話線を切って、すべてを終わらせようとする自分の最後の行為を述べる最後の箇所は、やがて、ガス・オーブンに首を突っ込む形で自殺する自分の最期を予告しているかのようである。
 
Sylvia Plath.jpg





1. あなたには無理 もう無理だわ
  私に靴を与えてくれるのは
  その靴の中の足のように
  私は三十年生きてきた 哀れで青白く
  息をしたり くしゃみをしたりするのにも勇気がいった。


2. ダディー 私はあなたを殺さなければならなかった。
  あなたは 私に殺されるまでもなく、死んでしまったけど ─
  大理石のように重く 神様がつまった鞄
  もう幽霊のようにしか現われることのないあなたの体 その灰色の足は
  サン・フランシスコのアザラシみたいに大きく


3.  アザラシは気紛れな大西洋で首だけだして
   美しいノーセット沖の海で
   青い海に鮮やかな緑をしたたらせる。
   私はあなたを取り戻そうと祈った。
   そうよ、お父さん。


4.  ドイツ語でね
   戦争 戦争 戦争というローラーで
  ぺちゃんこにされたポーランドの町で。
   でも その町の名はありふれたもの。
   私のポーランド系の友達に言わせると

5. 一ダースや二ダースはあるという。
   だから あなたが自分の足を
   どこに置いたか あなたのルーツを私はどうしても判らなかった。
   あなたに話しかけることができなかった。
   舌が顎の中でもつれて

6.  舌が刺のある鉄線の罠で捉われて
   ワタシ(イッヒ) ワタシ ワタシ ワタシとしか言えなかった。
   私は ろくに喋れなかった。
   私は どのドイツ人もあなただと思った。
   ドイツ語は卑猥だった


7.  ドイツ語は機関車 機関車
   私をユダヤ人みたいにシュッシュッと駆り立てる。
   ダッハウに アウシュヴィッツに ベルゼンに運ばれるユダヤ人。
   私はユダヤ人みたいに喋り始めた。
   自分はユダヤ人かもしれないと思っている。


8.  チロルの雪、ウィーンの澄んだビール、
   あまり純粋でもないし 真実でもない。
   私にはジプシーの女祖先がいるのだし 
   私のタロット・カード タロット・カードによれば 運勢は薄気味悪いのだから
   私はすこしユダヤ人なのかもしれない。


9.   私はいつもあなたを恐れていた。
   ドイツ帝国陸軍航空隊に所属し チンプンカンプンのドイツ語を喋り
   こぎれいな口髭をはやし
   鮮やかな青の アーリア系の目をしたあなたを。
   戦車兵 戦車兵 そう あなたは ─


10.  神様ではなくカギ十字章 
   どんな空も打ち勝てないほどの暗黒のカギ十字。
   女はみんなファシストが好き
   顔を踏みつける長靴や 獣や
   あなたのような獣の野蛮な心が好きなの。


11.  ダディー あなたは黒板のところに立っている
   私の持っている写真の中では。
   裂け目はあなたの足にではなく顎にある
   でも 悪魔であることに変わりはない
   私のきれいな赤い心臓を

12.  二つに噛み切った あの黒い男であることに変わりはない。
   あなたが埋葬された時 私は十歳だった。
   二十歳の時 私は死んで あなたのところに
   帰ろうとした 帰ろう 帰ろうと。
   骨になって帰っても良いとさえ思った。


13.  でも 私は引っ張り出されて
    動けないように糊付けされた。
    それから私はどうしたらいいか分った。
   私はあなたのような男を見つけたの
    黒い服を着た『わが闘争』風の顔をした男を。


14.  拷問台や拷問道具が大好きな男を。
   ついに見つかった ついに見つかったと私は言った。
   だからダディー ようやく終わりが迎えられるわ。
   黒い電話機は根もとから外したし
   声がウジムシのように受話器から這い上ってくることもできない。


15.  もし私が一人の男を殺したのなら 二人殺したも同じ ―
    僕が父親の代わりになろう と言って
    私の血を一年間 ― いえ もし知りたければ、七年間よ
吸い取ったあの吸血鬼を殺したのだから。
    ダディー、これであなたは休めるわ。


16.  あなたの肥えた黒い心臓には杭が刺さっていて
    村人たちはあなたのことなんを好きだったことなんか一度もなかった。
    彼らは今踊りながら あなたを踏みつけている。
    それがあなたなのだと、みんなずっと知っていた。
    ダディー ダディー ろくでなしのあなた もう終わりよ。





1. You do not do, you do not do
Any more, black shoe
In which I have lived like a foot
For thirty years, poor and white,
Barely daring to breathe or Achoo.


2. Daddy, I have had to kill you.
You died before I had time─
Marble-heavy, a bag full of God,
Ghastly statue with one gray toe
Big as a Frisco seal


3. And a head in the freakish Atlantic
Where it pours bean green over blue
In the waters off the beautiful Nauset.
I used to pray to recover you.
Ach, du.


4. In the German tongue, in the Polish town
Scraped flat by the roller
Of wars, wars, wars.
But the name of the town is common.
My Polack friend


5. Says there are a dozen or two.
So I never could tell where you
Put your foot, your root,
I never could talk to you.
The tongue stuck in my jaw.


6. It stuck in a barb wire snare.
Ich, ich, ich, ich,
I could hardly speak.
I thought every German was you.
And the language obscene


7. An engine, an engine,
Chuffing me off like a Jew.
A Jew to Dachau, Auschwitz, Belsen.
I began to talk like a Jew.
I think I may well be a Jew.


8. The snows of the Tyrol, the clear beer of Vienna
Are not very pure or true.
With my gypsy ancestress and my weird luck
And my Tarot pack and my Tarot pack
I may be a bit of a Jew.


9. I have always been scared of you,
With your Luftwaffe, your gobbledygook.
And your neat mustache
And your Aryan eye, bright blue.
Panzer-man, panzer-man, O You─


10. Not God but a swastika
So black no sky could squeak through.
Every woman adores a Fascist,
The boot in the face, the brute
Brute heart of a brute like you.


11. You stand at the blackboard, daddy,
In the picture I have of you,
A cleft in your chin instead of your foot
But no less a devil for that, no not
Any less the black man who



12. Bit my pretty red heart in two.
I was ten when they buried you.
At twenty I tried to die
And get back, back, back to you.
I thought even the bones would do.


13. But they pulled me out of the sack,
And they stuck me together with glue.
And then I knew what to do.
I made a model of you,
A man in black with a Meinkampf look


14. And a love of the rack and the screw.
And I said I do, I do.
So daddy, I'm finally through.
The black telephone's off at the root,
The voices just can't worm through.


15. If I've killed one man, I've killed two---
The vampire who said he was you
And drank my blood for a year,
Seven years, if you want to know.
Daddy, you can lie back now.


16. There's a stake in your fat black heart
And the villagers never liked you.
They are dancing and stamping on you.
They always knew it was you.
Daddy, daddy, you bastard, I'm through.  


















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